この作品について知らなくても、あれ、この絵どこかで見たことあるかも?という方も多いかもしれない。
なぜなら、Banksy「HMV」は日本にもある英国のレコードショップ「HMV」のロゴをオマージュした作品だからだ。
バンクシー作品の中で犬がモチーフになる作品は少ない。なので、犬好き、バンクシー好きにとっては貴重な作品だ。
HMVのロゴの元となった絵「His Master's Voice」

蓄音機に耳を傾けるのはワンちゃんのニッパー。ちなみにニッパーは1884年イギリス・ブリストル生まれ。そして、ニッパーの飼い主は風景画家の「マーク・バロウド」だった。
絵には、飼い主のマークが亡き後、蓄音機から聞こえる亡くなった「主人の声=His Master's Voice」に熱心に聞き入る犬の姿が描かれている。
この絵を描いたのはマークの弟の画家「フランシス・バロウド」。そして、バンクシーの作品はレコード会社「HMV」のロゴにもなったこの絵がベースになっている。
2003 Bar「Cargo」に壁画の「HMV」が登場

まず最初「HMV」はブリストルとロンドンのストリートに壁画として登場。残念ながら、ブリストルの壁画は既に作品、画像ともに消えて、ない。
しかし、上の画像のカラフルな「HMV」の壁画は2003年にロンドンの壁に残されたもので、欧州のストリートアートのメッカ「ロンドン・ショーディッチ」にあるBar「Cargo」の外席エリアの壁に残された作品だ。
そして、なんと、2023年現在もこの壁画はまだ残っている。
バンクシー作品を愛するバーのオーナーが監視カメラを設置。さらに、作品を保護板でずっと守り続けてくれたおかげで、この壁画はまだ残っている。バンクシーがこれまで発売したエディション作品の中で、オリジナルの壁画が残る、唯一の作品でもある。
しかし、2022年にBar「Cargo」は突如閉店。作品自体は残っているはずだが、今は見ることはできない。そして、今後「HMV」がどうなるのかも不明。このままこの場所に残るのか...それとも、壁ごと切り取られ、どこかで売られるのか... 今の所はわかっていない。
エディション版 Banksy 「HMV」

エディション作品の「HMV」は、2003年にPOWこと「Pictures on Walls」から発売。サイン入り「Signed」が限定150枚。そして、サインなし「Unsigned」が限定600枚。
サイズは縦35cm x 横50cmで小さめ。黒と白、モノクロのステンシルという初期のバンクシーを象徴するような表現の作品だ。
作品にはHMVのロゴと同じく、バズーカーを抱えた犬のニッパー。そして、蓄音機が描かれている。犬はバズーカーを蓄音機に向けている。
「HMV」作品の意味とは
CDが登場して、蓄音器やレコードの市場が破壊。そして、次に配信やダウンロード文化が登場して、CDの市場が破壊。資本主義の発展により、スクラップ&ビルド(破壊と創造)のサイクルに晒されてきた音楽業界を描いているのか。
それとも、亡き主人(HMV)をあの世から取り戻そうと、バズーカーでもぶっ放すワンちゃんを描いているのか。シンプルな表現なのに、作品から色んなストーリーや解釈が広がり、よく考えられた奥深い作品だ。