2020年10月9日、バンクシー展「天才か反逆者か」が大阪の南港ATCギャラリーにやって来たので初日、朝一で出かけてみた。横浜開催から約半年。
ちなみに僕自身、2016年にアムステルダムで開催されたバンクシー非公認のエキシビション、The Art of Banksyも観てきている。それと比べれば、日本の主催者もよく頑張っているとは思うが、展示された作品リストは見劣りした感が残る。だが、これはあくまで一個人の感想だ。
2021年8月21日から東京で始まる「バンクシーって誰?展」は、このThe Art of Banksyの切り口を日本に持ってくるのだとか。とりあえず、期待したい。
さて、僕はふだんバンクシー作品を仲介・販売している謂わば「バンクシー作品のプロ」であるが、ここで一般的なことを書いても他のブログや記事と差別化が図れないので、長年培ってきたバイヤー目線で切り口を変えて大阪のバンクシー展の感想を述べてみようと思う。
↑まず、バンクシー展に飾られていた作品を何の先入観もなしに見てみたい人は、ほぼノーカット、編集無しの動画からご覧になっていただきたい。ただし、約1時間の動画であることだけは初めにお伝えしておこう。
バンクシー展「天才か反逆者か」感想を率直に述べてみる
バンクシー作品が日本に集まったことは素晴らしいことだと思う。
だが、どこか物足りなかった。
オリジナル作品やサイン入りの作品が少なく、エディションナンバーのみ(Unsigned)の作品やポスター、自作のインスタレーションが多く、どこか「レアな作品を日本に引っ張って来られなかったから傘増ししないといけない感」として伝わってきた。
もちろん、来場者のほとんどは作品から刺激を受けたり、感銘を受けたりしている様子だった。
オランダ・アムステルダムのMoco Museum(バンクシーのオリジナル作品を多数常設展示している)やバンクシーの元代理人 スティーブ・ラザリデスが開催するバンクシー展「The Art of Banksy」などで飾られていた作品群を見ると物足りないなぁ、という印象を持ってしまった。
大袈裟に話しているわけでもなんでもなく、「バンクシーっていうのはこんなもんじゃない」、「勘違いしてほしくない」という気持ちがどこかにあるのかも知れない。バンクシー作品が大好きで、海外のバンクシーのエキシビションにまで行ったことがある人なら、同じように思う人も多いだろう。
では、バンクシー展「天才か反逆者か」は行く価値がないのか?
「バンクシー展 天才か反逆者か」が物足りなかったと冒頭からお伝えしてしまったが、行く価値がないか?と問われれば、そういうわけでもない。
中には、今この作品がオークションにかけられたら5億円以上で落札されてもおかしくないとか、9割以上の確率で1億円以上の値が付く可能性が高い作品とか。
よくこの作品を日本に持って来たな....、という作品もある。ただ、種類が少ないというだけなので、これまで直にバンクシー作品を観たことがない人や、この作品を生で観てみたいという特定の作品がある人にとっては行く価値は十分にあると思う。
バンクシー展に展示中 推定 1億円以上の価値ある作品リスト
僕自身、アート作品を市場価値だけで判断するべきではないと思っているが、高い値が付くほどレアで貴重な作品という側面があるのは確かだ。バンクシー展へ出かけた折りには、市場価値が1億円以上する作品にじっくり時間をかけて鑑賞するのも悪くはないと思う。
それでは、現在2021年2月時点、オークションへ出品したら1億円以上の価値が付くだろうレアな作品から紹介していこう。
Kate Moss スペシャルエディション 6枚組(推定4.8億〜6億円)
- タイトル: Kate Moss (ケイトモス)
- エディション:20(6枚とも同じ)
- 制作年:2005
- サイズ:70cm x 70cm
- サイン:あり
ケイトモス(Kate Moss)は、2005年11月〜12月にバンクシーがロンドンで開催したクリスマスイベント「サンタズ・ゲットー(Santa's Ghetto)」で発売された作品だ。
Kate Moss Original Colour Way
↑ こちらの「Kate Moss Original Colour way」はバンクシー展では展示されていない。
作品「Kate Moss」には上の画像のケイトモスの髪の色のように金髪がメインエディション、「Kate Moss Original Colourway」髪の色と背景色がそれぞれ違う6種類のスペシャルエディションがある。
メインエディションは限定50枚で、バンクシー展に展示されている6種類のスペシャルエディションはそれぞれ限定20枚。
「Kate Moss」はバンクシー直筆のサイン入りシルクスクリーン作品の中では「Girl with Balloon」に並ぶほど人気がある。
2020年9月のクリスティーズのオークションでは「Girl with Balloon」の風船がパープルのスペシャルエディションが約1.1億円で落札されたことを考えると、こちらの「Kate Moss」のスペシャルエディションは1枚8000万円〜1億円位で落札されてもおかしくない。
なので、2021年2月現在、6枚を1セットにすると、推定4.8億〜6億円くらいの値が付けられる。
6色すべてのケイトモスが集まることは貴重で、今回の大阪のバンクシー展では中心に展示されていた。
この6枚1セットを一度に見られる機会には中々、お目にかかれないので十分に堪能してほしい作品だ。
Monkey Surfer on Bombs 2000 推定5億円
- タイトル: Monkey Surfer on Bomb(モンキー・サーファー・オン・ボム)
- サイズ: 178cm x 181cm
- 制作年: 2000
「Monkey Surfer on Bomb」はバンクシーが本格的にアーティスト活動を始めた超初期に制作された作品だ。サイズも大きい。
これらの要素を考慮すると、今この作品をオークションに出品したら、5億円を越える可能性は高い。
2005年に制作したモネの睡蓮のオマージュ作品「Show Me The Monet」が2020年10月21日に10億円以上(755万1600ポンド)で落札されたことを考えると、今後この作品が10億円以上で落札されてもおかしくはない。
バンクシー「Show Me The Monet」に関してはこちら→バンクシーモネのオマージュ作品が10億円越えで落札。
「Monkey Surfer on Bomb」はおそらく「バンクシー展 天才か反逆者か」の中で、6枚1セットの「Kate Moss」と一、二を争う貴重な作品かもしれない。
ちなみに、2017年、オランダ・アムステルダムにあるバンクシー作品を常設する美術館「Moco Museum」に行ったときもこれと同じ作品が展示してあった。
Forgive Us Our Trespassing 推定2億円
- タイトル: Forgive Us Our Trespassing(フォーギブ・アス・アワー・トレスパシング)
- サイズ: 69cm x 53.5cm
- 制作年: 2013
こちらの「Forgive Us Our Trespassing」と同タイトルの作品が、2020年10月5日の香港サザビーズのオークションで約8億9600万円で落札されている。
詳しくはこちら→バンクシーの作品 FORGIVE US OUR TRESPASSINGが約8億9600万円で落札!
この作品は初め、2010年に公開されたバンクシー初監督映画「Exit Through The Gift Shop」の宣伝用ポスターとして制作された。
いくつか違うサイズやバージョンがある中でこの縦69cm x 横 53.5cmサイズの作品は、おそらく2億円前後というところだろうか。
PANTS 推定2億円〜3億円
- タイトル: PANTS(パンツ)
- サイズ: 120cm x 84.5cm
- 制作年: 2009
Very Little Helpsのミューラル
ノース・ロンドンのストリート「Essex Road」にある薬局の壁に描かれたミューラル(壁画)「Very Little Helps」を元に制作されたのが↑の「PANTS」。
「Very Little Helps」ではイギリスの大手スーパー「TESCO(テスコ)」のレジ袋を掲げているが、こちらの「PANTS」ではユニオンジャック柄のパンツを掲げている。
作品のサイズ、希少性、タイトルの人気を考慮すると、1億円は軽く越える可能性が高く、2-3億円の値が付いてもおかしくない。
Monkey Detonator (推定2-3億円)
- タイトル: Monkey Detonator(モンキーデトネーター)
- サイズ: 76cm x 76cm
- 制作年: 2000
バンクシーといえばサル。サルが爆弾のスイッチを踏むようなシーンを描いたのがこちらの作品「Monkey Detonator」 。
バンクシーの初期の作品であること、サルがテーマの作品ということを考慮すると、2〜3億円くらいの価格にはなってもおかしくない作品だ。
Bull Dog(推定1億〜2億円)
- タイトル: Bull Dog(ブルドッグ)
- サイズ: 92cm x 92cm
- 制作年: 2000
- エディション: 1/1
一見、バンクシーっぽくない、バンクシー初期の作品。メッセージ性がなさそうな初期の作品は枚数も少なく、かなり貴重で、世界に1枚しか存在しない1/1オリジナル作品であることを考慮すると、1億円〜2億円の価値が付く可能性が高い。
Heavy Weaponry(推定1億円〜1.5億円)
- タイトル: Heavy Weaponry(ヘビーウェポンリー)
- サイズ: 縦25cm x 横30cm
- 制作年: 2003
ロケットを背中に巻き付けた象を描いた作品「Heavy Weaponry」。
バンクシーの本物の作品を所有した人ならご存知だと思うが、このデザインは作品が本物であることを証明するペストコントロール(Pest Control)発行によるCOAのデザインにも使われている。
↓ COAの右上に押されたスタンプが「Heavy Weaponry」のデザインになっている。
サイズが小さい作品なので、どの位の価格になるかは予想しにくいが、COAにデザインされている作品となると 1億円は軽く越えるだろう。
Cop Car (1億円〜1.5億円)
- タイトル: Cop Car(コップカー)
- サイズ: 縦76cm x 横102cm
- 制作年: 2002
2002-2003年に発売されたシリーズアルバム「Bad Meaning Good 」のジャケットデザインとして描かれたのがこちらの作品だ。
タイヤが失く、動かない警察車両を描いた作品「Cop Car」。
これなら追われることもない。バンクシー初期の作品だ。
作品のサイズの大きさ、希少性、初期の作品の貴重さからおそらく、1億円を少し越えるくらいになる可能性が高い。
1億円以上の価値が付く根拠
これまで紹介した作品をすべて1億円以上の価値があると予想した。
それは、下の画像のピンクの作品「Avon & Somerset Constabulary」が 2020年10月31日に国内最大級のアートオークション「SBIアートオークション」で9200万円で落札されたからだ。
Avon & Somerset Constabulary
- タイトル: Avon & Somerset Constabulary
- サイズ: 縦76.5cm x 横76.5cm
- 制作年: 2001
- エディション: 10
この「Avon & Somerset Constabulary」は初期の作品ではあるが、特別に人気のある作品ではない。
そして、エディション10ということは同じ作品が10枚あるということなので、特別に貴重であるわけでもない。
それでも、この「Avon & Somerset Constabulary」が9200万円で落札されたということは、この作品よりも人気があり希少なキャンバス作品はほとんどが1億円を越える可能性が高い。
これが今まで紹介してきた作品の数々が1億円を超える値が付くだろうと予想した根拠だ。もちろん購入者がいればの話だが。
注目すべきスペシャルエディション
今回、大阪南港ATCギャラリーで開催されている「バンクシー展 天才か反逆者か」では、通常では滅多に市場に出てこないスペシャルエディションも展示されている。
ここからは、今回のバンクシー展で注目すべきスペシャルエディションの作品を紹介しよう。
「来場者が多すぎて、3密が気になるという方や、お目当ての作品はあるが、他は何に時間を掛けて見ていいかわからない」という方は、こちらのスペシャルエディションに時間を割いてみても良いかもしれない。
Choose Your Weapon Right
- タイトル: Choose Your Weapon Right(チューズ・ユア・ウェポン)
- サイズ: 縦70cm x 横70cm
- 制作年: 2010
- エディション: 25
- サイン入り
2010年にPOWこと Pictures on Wallsから発売された「Choose your Weapon」.フードを被り、顔をバンダナで隠した男。その男が連れている犬は、キース・ヘリングの作品によく登場する犬だ。
Banksy(バンクシー)は2010年に「Choose Your Weapon」を発売してから、POWから作品を発売しなくなった。
Rude Copper
- タイトル: Rude Copper
- サイズ: 縦60cm x 横40cm
- 制作年: 2002
- エディション: 250
- サイン入り
国家権力の象徴、平和を目指すべき警官が中指を立てている作品「Rude Copper」。こちらの作品は、Pictures on Walls設立以前の作品。バンクシーのアマチュア時代の作品とも呼べる。
こちらはバンクシー自らによるハンドスペレーペイントで仕上げられた貴重なスペシャルエディションだ。
Police Riot Truck - Dismaland Gift Print
- タイトル: Police Riot Truck(ポリース・ライオット・トラック)
- サイズ: 縦68cm x 横103cm
- 制作年: 2015
- サイン入り
こちらの作品は、Banksy(バンクシー)が2015年に開催したディズマランドの園内で働いたスタッフにプレゼントとして制作した作品だ。
ディズマランドって何?という方はこちらをクリック→バンクシーが作ったDISMALAND(ディズマランド)は、世界の問題をあぶりだしたようなテーマパークだった…..
こちらは、2015年8月21日から9月27日までの約5週間の間、ディズマランドで働いたスタッフだけが入手できる作品で、一般には販売されていない。
Sale Ends V2
- タイトル: Sale Ends V2
- サイズ: 縦56cm x 横76cm
- 制作年: 2017
- サイン入り
- エディション: 500
こちらは、バンクシーを中心にグラフィティーアートの新しい流行を作ったオンラインギャラリーPOWこと「Pictures on Walls」が2017年12月にその15年の幕を閉じる記念に抽選で販売された「Sale Ends V2」。
実はこの作品は既に2006年に制作されていたが、諸事情あり、発売されなくなり、11年の時を経て、2017年のPOWの閉店を記念して発売されたバンクシーのアーティスト活動の節目を彩る特別な作品だ。
バンクシー展 in 名古屋が開催決定!
以上、この記事では13作品を紹介したが、人の好みは十人十色。
2021年2月3日〜5月31日、名古屋でもこのバンクシー展が開催されることが決まった。
これから、実際に「バンクシー展 天才か反逆者か」に足を運び、自分のお気に入りの作品を見つけて頂きたい。
コロナの関係でいつになるか分からないが、2021年以降、Banksy(バンクシー)の元代理人スティーブ・ラザリデスが開催するバンクシー展がいつか日本に来るだろうから、
その時に、なかなか見れないレアなオリジナル作品を楽しめるように、今回のバンクシー展を予習として楽しむのも良いかもしれない。
P.S. バンクシー展に行く前に「もっとバンクシーについて予習しておきたい」という方はこちらの記事がオススメ!→バンクシー展 大阪に行く前に知っておきたいBANKSY作品と年表!