国内2つ目になるバンクシー の大型エキシビション、「バンクシーって誰?(Who is Banksy?)」展が2021年8月21日、朝11時から始まった。
開催当日の朝、40分前にバンクシー展の会場に到着したが並んでいるお客さんはまだいなかった。
20〜30分前になると一気に行列ができて、開場45分後にはたくさんの来場者で賑わい、作品をじっくり見るためには並んでいる前後の人に気を遣いながらじゃないといけない状態になった。
以前「バンクシーって誰?」展を紹介する記事にも書いたが、ふだんバンクシー作品を仲介・販売している謂わば「バンクシー作品のプロ」という目線からこのバンクシー展をレビューしようと思う。
↓youtube動画【バンクシーって誰?展】寺田倉庫、東京会場を13分の動画でレポート。
バンクシー展をざっくりと見ることができるので「遠方で諸事情で行けない」「行く前に予習しておきたい」という方はぜひこちらの動画をご覧いただきたい。
バンクシー作品(本物に限る)を取り引きするバイヤーの僕に今回のバンクシー展はどう映ったのか?
2022年1月現在、エキシビション「バンクシー展 天才か反逆者か」が東京原宿で開催されているが、作品展示数だけで比較すると断然「バンクシーって誰?展」の方が展示数は限られている。
だが、ここ以外では滅多にお目にかかることのできないレアな作品と、日テレの美術制作チームが再現したバンクシーのグラフィティアートの世界、今は無き(消された)ストリート作品が次から次へと表現された空間の中で、今後日本でバンクシーのエキシビションが開催されたとしても、ここまでの世界観はもう味わえないだろうな…と、一人、会場で興奮した。
展示作品がどうのこうのというよりは、当時のロンドンやその他の場所にタイプスリップしたような感覚にさせてくれるのが素晴らしい。
今後、名古屋→大阪→福島と、日本中を巡回していくこのバンクシー展の世界観がその会場、会場でどのように展示されていくかも楽しみの一つだ。
バンクシーを最近知った人にとってこのバンクシー展は…
バンクシーについてまだあまり知らない人にとってはわかりやすい展示方法で、作品数が少ないおかげで逆に疲れることなく作品を見て回ることもできるし、インスタ映えする自撮り写真スポットも絶妙に配置されていて、バンクシーのことをもっとよく知るいい機会になると思う。
長年のバンクシーファンにとってこのバンクシー展は…
バンクシー好きの人にとっては、厳選された超レアな作品と、日テレ美術制作チームが再現したバンクシー作品が織りなすグラフィティアートの世界観に、プラス、他ではなかなか見ることのできないレアな作品を堪能できるバンクシー展だったと言える。
バンクシーって誰?展で絶対に見るべき作品
「バンクシーって誰?」展を訪れたとき、日テレ美術制作チームが再現したバンクシーのストリートアートの前で映える自撮り写真を撮るための列ができていた。
それが悪いというわけではないが、そのすぐ後ろに展示されていたオリジナル作品に一切目もくれない人がほとんどで、このバンクシー展でおそらく最も貴重で、最も価値の高い作品の前を知らないということはなんてもったいないことだろう、と思った。
「高額だから価値がある」という価値観は好きではないが、滅多に見ることができない、そして、バンクシー本人がすべて手作業で制作したオリジナル作品に、時間をかけて鑑賞する価値は十分にあると思うから、ここからは、バンクシーの貴重でレア作品を紹介していこうと思う。
1, Love is in the Air -オリジナルキャンバス- 2006
- タイトル: Love is in the Air
- 制作年: 2006年
- サイズ:縦91cm x 横91cm
- 技法: 油彩、スプレーペイント&アクリル on キャンバス
- サイン:あり
- ED 15
- ペストコントロール COA あり
バンクシーを代表する作品の一つ、「Love is in the Air」で火炎瓶の代わりに花束を投げる暴徒が象徴的な作品だ。
Love is in the Airは「バンクシーって誰?展」の中で一番貴重な作品かも知れない。
なぜなら、2021年5月12日、サザビーズ・ニューヨークのオークションで↓の「Love is in the Air」(背景は白)が約14億円で落札されたからだ。
背景が白い「Love is in the Air」はスプレーペイントのみで表現されているが、今回バンクシー展に展示されている「Love is in the Air」は花束がバンクシー本人によってアクリル絵具で描かれている。
バンクシーって誰?展で展示されている「Love is in the Air」は、2021年11月18日にサザビーズ・ニューヨークで開催されたオークションで、807万7200ドル、日本円にして約9億円で落札。
作品の良し悪しが価格で決まるわけではないが、作品としての価値が高いから「9億円をこの作品に支払ってもいい」という人がこの世に存在するのも確かなのでゆっくり時間を取ってこの作品を見ていただきたい。
2, Girl with Balloon Diptych 2006
- タイトル: Girl with Ballon Diptych
- 制作年: 2006年
- サイズ:縦30.5cm x 横30.5cm(どちらも)
- 技法: 油彩、スプレーペイント&アクリル on キャンバス.
- サイン:あり
- ED 25
- ペストコントロール COA あり
Girl with Balloonも言わずと知れたバンクシーの代表作であるが、少し他の「Girl with Balloon」と違うのは、風船に手を伸ばす少女と空へ飛んでいく赤い風船が、二つのキャンバス分けて描かれていることだ。
*Diptychとは2枚合わせて一つの作品になる様式のこと
2016年か2017年にオランダ・アムステルダムのMOCO美術館で見た記憶があるが、これもとても貴重な作品だ。
一番最後にシルクスクリーンでサインなしの「Girl with Balloon」と並べて展示されていたので、このバンクシー展を締めくくるメインの作品だと僕は受け取った。
こちらの「Girl with Balloon Diptych」は、2021年10月15日、クリスティーズ・ロンドンのオークションに出品され、304万2500ポンド、日本円にして、約4億7000万円で落札。
3, Gangsta Rat -オリジナルキャンバス- 2004
- タイトル: Gangsta Rat
- 制作年: 2004年
- サイズ:縦78cm x 横61cm
- 技法: スプレーペイント on キャンバス.
- サイン:あり
バンクシーを象徴するラット(ネズミ)をモチーフにした人気作品「Gangsta Rat」で、バンクシー本人がスプレーペイントで表現したオリジナル作品だ。
Gangsta Rat(ギャングスタ・ラット) のシルクスクリーンのスペシャル版を見ることはあるが、バンクシーがスプレーペイントだけで仕上げたオリジナルキャンバス作品を観られるのはかなり貴重で、これも他では滅多にお目にかかれない。
ギャングスタに扮したラット(ネズミ)に豪快なタギングの背景。この作品にバンクシーのどれほどのメッセージが詰め込まれているのだろうと想像すると、味わい深い作品だ。
4, Bomb Love 2002
- タイトル: Bomb Love
- 制作年: 2002年
- サイズ:縦43cm x 横43cm
- 技法: スプレーペイント on キャンバス.
- サイン:あり
「Bomb Love」もしくは「Bomb Hugger」とタイトルが付けられるこの作品は、2003年にもシルクスクリーンでペーパー作品化された作品であり、ティーンエイジャーの少女が爆弾を抱き抱える姿はこの世界の在り方について、観る人々に考えさせる。
2002年頃、本格的にアーティスト活動を始めたバンクシー本人が、スプレーペイントを噴いて仕上げた貴重な作品でもある。
5, Gas Mask Fly 2002
- タイトル: Gas Mask Fly
- 制作年: 2002年
- サイズ: 縦101cm x 横101cm
- 技法: スプレーペイント on 切手 on カードボード.
- サイン: あり
制作は 2002年、バンクシーのキャリアの中でも初期の頃の作品になる。作品の方向性に対する試行錯誤が見て取れる時期だ。
段ボールの上に無数の切手を貼り、その上からガスマスクを付けたハエをスプレーペイントで噴いている。会場に足を運んだ際には作品に近づいて、目を見開いて、よく見て欲しい。
これら無数の切手は実は、ガスマスクを付けたサルの英女王だったりもする。
youtube動画【バンクシーって誰?展】東京会場を13分の動画でレポートでもご覧いただける。
6, Congestion Charge 2004
- タイトル: Congestion Charge
- 制作年:2004
- サイズ:縦69cm x 横79cm
- 技法:油彩 on キャンバス
- サイン:あり
この作品は蚤の市で安値で売っていた無名の作家の風景画にバンクシーが上から少し描き足したものだ。バンクシーが描き足したのは作品右下のCのマークの看板部分。
2004年当時、ロンドンの中心部(Zone1)はひどい交通渋滞に悩まされていた。ロンドンの中心部に入る車に渋滞税(Congestion Charge/コンジェスチョン・チャージ)なる税金を課している。このCのマークの看板はその渋滞税(Congestion Charge)がかかるエリアと時間帯を示すもの。
のどかな田園風景と牛、そして、渋滞税の看板。昔のロンドンはこんなだったのに、、とでも言いたげなイマイチメッセージを受け取りにくい作品があるのもバンクシーの初期の作品ならではかも知れない。
7, Dumbo 2014
- タイトル:Dumbo
- 制作年:2014
- サイズ:縦55.4cm x 横74.5cm
- 技法:スクリーンプリント, 水彩
- サイン:あり
- ED:25
2013年10月1日からの1ヶ月間、バンクシーはニューヨークの街のどこかに、毎日1作品を残していった。それら作品の詳細や場所を自身の公式インスタグラムや公式サイトに公開するというパフォーマンス作品「Better Out Than In」を行った。
このパフォーマンスの中の1作品がこの↓のYoutube動画で、この動画をシルクスクリーン作品化したものが今回の「バンクシーって誰?」展に展示されている「Dumbo」だ。
Dumbo は限定25枚のシルクスクリーン作品で、直筆サインが入っている。しかも、空飛ぶゾウ「ダンボ」の黄色い部分が水彩絵具で仕上げられている。
何が貴重かというと、バンクシーの名が世界に知られ始めた2014年に発売されていることや「Better Out Than In」の1作品がシルクスクリーン作品となったというのもあるが、たった25枚しかないというのも魅力的だ。ほとんど目にすることがなかった貴重なシルクスクリーン作品。ぜひこの機会に上の動画を観た後で、実際の作品を鑑賞していただきたい。
バンクシーって誰?展を10倍楽しむ方法
予備知識なしに足を運び、いきなりアーティストの作品と対峙することを好む人、その逆もまた然り、楽しみ方は人それぞれだと思うが、僕は職業柄かも知れないが美術展に行く前には必ず事前にそのアーティストにまつわる歴史や作品を詳しく知っておいた方がより楽しめると考えているタイプだ。
手元にバンクシー関連の書籍がないという方には下記記事をお勧めしたい。
この記事は「バンクシー展 天才か反逆者か」が開催される時に書いたものだが、どのバンクシー展にも応用できると思う。